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『奇妙』16 [自作原稿抜粋]

   内面
 俺には、後一週間の自由時間が有った。
 才子は、どうかは知らない。しかし、俺は、才子を率(ひ)っぱって動くつもりだった。
 八月十八日、水曜日。
 その日は、夏には珍しい長い雨が降っていた。
 時々、断続的に雷鳴が空気を震わせた。
 夜のような朝だった。
 一般の人は、もう昨日くらいからそれぞれの仕事に復帰している。
 才子は、まだ寝ている。
 ショルダーの中で不死身のケイタイは、ゆっくりと覚醒する。
 ワルキューレの騎士たちが、徐徐に俺のeの発生源である左側頭の一点に勇ましく行軍してくる。
 そんなにボリュームが上がってしまうまでに、俺は、通話ボタンを押した。
「いつまで、そこに居るの? 貴方も目的を持たない旅じゃなかったの?」
 謎のクーペの女・・・・。
「・・・・・・」
「その娘と居るより、私のほうが頭も斬れるのに、それに、私のほうが貴方と釣り合うわ、きっと。」
「それは、俺を口説いてるのか?」
「貴方に気がないなら仕方ないわね」
「・・・少し、気分がいいよ。女性にそんな風に迫られるのも久しぶりだし・・・。結局、男と女が繋がるのは、対外的な見栄の為じゃないということだよ」
 少し、沈黙が有った。
 彼女は、何かを考えているようだった。
「ところで貴方達。知ってると思うけど例の超能力者達に狙われているわよ。貴方の行動力と、その変な力が有れば何とか難は免れるかもだけど、・・・私も、もう少し、会社は休む事にするから、私が気付いた時には少しはガードしてあげるから、まあ、頑張って・・・。それに楽しんでね。ーーー彼女と結婚してしまいなさいよ。・・・・それは、大きなお世話か!? じゃあ~ね」
「ああ、有り難う」
 意外に、坦々と会話は終わった。
 ゆっくりと起き始めた才子を充分に待ちながら、その猶予の間に俺は、このフロアの自販機でカロリービスケットと缶コーヒーを買い、部屋に戻ってゆっくりとしか動けない才子の起床動作を眺めるという行為を愉しんだ。
 やっと私服に着替えた才子に、
「結婚しよう」
 と、俺は言った。
 俺は、結婚について、そんなに難しく考えてはいなかった。況して、好きでなければならないとも思っていない。才子に対する俺の気持ちは、父性に似た労りだった。
 俺の言葉で、才子は、一旦、精神的にぎこちない不安定な状態になった。
「まあ、これでも飲んで」と、言って俺が差し出した缶コーヒーに、タヴを開けて渡してやっても、両手でも手が震えて上手く飲むことが出来ない。
 俺は、缶を取り上げ、口移しに数回に分けてコーヒーを与えた。
「本気なんですか? 信じていいんですか?」
 才子の頭の中で幾種もの仮定的推測による俺の動機がシナリオとして同時に再生される。
(Kさんは、単に興味本位に~、Kさんは女色のない不便さから~、否、Kさんは、純に恋心から~、否、Kさんは私に同情して、否、Kさんは独り身の不便さから~、)
「Kさんが判らない・・・・・」
「君は本当は、美人で頭も切れるんだろう? 今は、調子が悪いのも本当だろう。それに、好きじゃなきゃ一緒になっちゃいけないかな。君と居ると凄く落ち着く。神が見えない糸で結ばせる結婚も在るんじゃないかな・・・・即決する必要はないよ」
 俺は、さらに速度を落として継けた。
「君は、箱入りかい? つまり、結婚する時、結納だの両家の綿密な話し合い等を必要とする家での立場かい?」
「そんな事はないけど・・・」
「じゃあ、この旅行が終わったら、僕の地元に行って入籍だけしよう」「僕は、同棲というヤツが許せないんだ。籍を入れれば、公(おおやけ)に何の問題もない。」
   *   *
「君は、ここに車で来ているの?」
「うん、自分のスターレット」
「じゃあ、今から、その車を売りに行こう。僕と君は一緒に僕の家に来るんだから、車は二台は要らない。勿論、売ったお金は、君のものだよ。君の車だもの」
 彼女は暫し黙り込んでいた。
「何か特別な思い入れでも、その車に?」
「うん、凄く愛着が有るの。デザインも気に入ってる」
「それじゃあ、今から、スターレットの送別会をしよう。何枚も君と一緒のスターレットの写真を撮って・・・。新しいものを得る時には、いくらかの別れも同時に経験するものだよ。ロケットでも燃料がなくなった部分をずっと道連れに連れては行けない。そんな事をしたら、次のバーナーに点火出来ないからね。」
 俺達は、彼女の車に乗って、彼女の住民票を取りに姫路の市役所に赴き、その脚でガソリンスタンドで彼女の車を洗い、コンビニでピンクのリボンを買ってスターレットのフロントグリルに結び、姫路城の駐車場に行った。
 何枚ものスターレットカラットと彼女のツーショット写真を撮り、時々は、城を背景にもした。
「車にキスして!」
 彼女は、行き交う人々の視線を気にして躊躇していた。
「君の愛車だろう。もう会えないんだよ」
 愛車との接吻の最高のショットが撮れた直後、才子はしゃくり上げた。行き交う他人は、奇異の目で俺達を見る。
 これじゃあ、俺が彼女を苛めているような画に見えるだろう。
「わかったよ。そんなに泣かなくてもいいよ。・・・・ともかく助手席に乗って!」
 俺は、○○荘に向けて走った。
「僕の車を売る事にする」
 俺のミラノX1は、高~く買いますという売り文句の店で、そんなに高くなく買い取られた。
 小豆色のスターレット・カラット1300㏄。キャブレター方式、ノンターボ、四気筒ツインカム、オートマティック。ローギアとドライブギアとバックギアとニュートラルとパーキングギアしかない。まあまあの加速だが、オートマは機転が効かない。
(それでも、どんな車にでも限界を引き出す走らせ方は有る)
 俺は、自分の内心に言い聞かせた。
 スバル360だって、乗り手次第だ。

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『奇妙』15 [自作原稿抜粋]

   ピーター・アースキンで休憩
「何かないのか!?」
 俺は、少し苛ついていた。
 やっとの事で難を逃れ、○○荘に戻ったばかりの俺達だった。
「お酒? それとも何か食べに行く」
 夕方の七時を回っていた。
 盆なのに、その稼働を示す造船所のガスバーナーは、今も灯っていた。金属を叩く音も不規則に時々、窓越しに聞こえていた。
「違う、食べ物じゃなくて音楽だ。有線なんて上手く聞きたいモノは聞けやしない」
「じゃあ、私、アナタの聴きたそうなモノを取ってくるわ。すぐ戻るから」と、言って才子は部屋を出て何処かに行ってしまった。
 彼女を保護し続けなければ、という思いは、俺の中のベースには有ったのだが、草臥れていると四六時中それを優先させられない。
 俺は、ジョニーウォーカーの瓶をショルダーから出した。ダブルで一杯分しか、それは残っていなかった。喇叭飲みして態態、蓋をしてショルダーに戻し、バッグのファスナーを閉めてから、そのバッグを頭上まで持ち上げ、それから振り投げる様にして床に叩き付けた。
(畜生!)
 暇つぶしにTVを点けてみるが、全てのチャンネルが下らなかった。
 中でガラスの破片だらけになっているショルダーをもう一度、右脚で上から踏みつけた。
(畜生!)
 動くのがしんどい。
 旅の供にと持って来たサルトルの”嘔吐”を読みかけて・・・・しかし、それも目が疲れていて集中出来ない。
 仕方なく、今は、段々と暗くなりかけている海側の窓の造船所のガスバーナーの蒼を見ながら、マルボロメンソールを吸って脱力していた。
 才子がバタバタと荷物を持って部屋に戻ってきた。
「これで、いいかしら?」
 と言って、CD三枚を俺の前のテーブルに拡げた。
 ウェザーリポート二枚、チック・コリア一枚のアルバムだった。 低音用が径16㎝位のCDラジカセをテーブルに置き、才子は、それをコンセントに繋いだ。
「絨毯の上に置くんだよ。テーブルの上では振動でビビる」
 彼女は、ラジカセを床の上に置き直し、
「どれから聴く?」
 と、俺に訊いた。
「ウェザーリポートは、特にアースキンのドラムはスネアが硬くて、頭にパシパシ来るんだよ」
「あら、でも、こっちのは、そうじゃないわよ。じゃあ、これからね」
 と言って、ウェザーリポートの中の一枚を再生させた。
(懐かしいなあ・・・・)
 全然、パシパシとは来ない音質だった。昔、北海道への石田との旅行で、ジャズ喫茶で聴いたアルバムだった。完全なそれぞれの楽器のミックスが技量的に出来ている。厳密に、今、エレピの音なのかギターの音なのか、とか、エレベの音なのかジャズギターの音なのかの区別のつかない音が多分に含まれていた。そして、物語りのような進行性が有った。
 俺の気分は、少し落ち着いた。
「これも要るでしょ・・・」
 と言って、才子はフォアローゼスのボトルをポリエチレンの吊り袋から出した。
「どうして、俺の一番好きな酒を」
「私は、リーダーですよ・・・・貴方、ずっとコーンベース、コーンベースって頭の中で・・・」
 俺達は、安らいだ。
 俺達は、続いて掛けたモレイラを聴きながら長い間繋がった。
 一時的に雷が鳴り、夕立が夜を早めた。

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『奇妙』14 [自作原稿抜粋]

   試行                           
 蜩とアブラゼミは鳴かず、一、二匹だけのツクツクボウシだけが鳴く朝が、やって来た。
 俺も才子も同時に目覚めた。
 午前四時四十四分だった。
 テレパシストとリーダーでは、お互いに微かな変化に聡く、相手の気の変化を感じて身構えるように起きてしまうのだ。
 未だ日は昇っていなかったが、東の空は既に白みかけていた。
 才子は、寝癖のついた髪だったが、その顔は、健康に戻っていた。 Kと才子は、お互いのベッドの間の丈の長い東に向いた窓のレースのカーテンを、それぞれに指で開け、恣意的にではなく窓外を観ながら横の距離を狭めていった。
『いいかい』という、ただそれだけのキーワードで、脳内対脳内に直接会話をし、合意を確かめると、急速に密着し合った。
 全ての事は、これだけではない。
 これらの事は、俺達にとって随時、必要になる事なのだ。
 むしろ、今から、二人が越えて行かなければならない壁は、二人で掛かっても高く多いのだ。
(瞬間的ではあるが、考える事をして、即決する判断・・・・、或る場面では、それが出来るか出来ずに迷うかでは、雲泥の開きが有る)
  俺と才子は、二人でどう動くべきか、どういう目的の為に動くべきか、そして、それぞれにこれからどうしたいか、そして、お互いのこれからのビジョンについて、徹底的に語り合った。
 才子が話したくない自らの過去や、俺の知られたくない人生の軌跡については、お互いに踏み込む事はしなかった。
 ただ、Kと才子のこれからの指向性が、どれほど一致しているかについてだけ確認し合った。
ーーー「俺と君では、一人ひとりは、ネックを抱える弱い人間かも知れない。・・・でも、超自然的な力のひとつを例にとっても、俺達は、補い合える存在だと、俺には思える。」
 俺と才子は、再び、街の変化が有るかないかを知る為、パルサーで東へ向かった。
 高砂の名も知らぬ喫茶店で休憩を取った。
 非常に薄暗い店内で、それは、時代錯誤かと思わせる程の薄暗さだった。
 入り口から縦に長い店内の俺達の居る奥の席には、テーブルの上の電球の明かり以外、何もなかった。
 一人しか居ない細身のウエイターは、レジの集計をしているらしく、俺達の注文を運んだ後は、入り口に近いレジスターの前で、ずっと札と小銭を数えていた。
 俺達以外には、外の窓に近いボックスに一人の30代の男が、ただ一人居るだけだった。
 30代の男は詐欺師的笑みを浮かべていた。炭酸の入ったドリンクを、その長いグラスに差し込まれた曲がらないストローで、時々、もの凄く遅く吸っていた。
 その男は、ノーマルなのか不真面目なのか、玄人なのか遊び人なのかさえ、Kには解らなかった。外見では、如何様にもとれる容姿だったからである。
 ブレザーを着ているが、ソフトスーツのようなゆったりしたものではない。色も紺や茶やグレーではないが、派手ではない紫色だった。
ーーー「こいつらには悟られ易いよ」ーーー
ーーー「その通りだ。こいつらは、マークする必要がある。」ーーーーー「俺達のネットワークも知られちゃあ、放っておけないよな、マスター」ーーー
 彼等が、そう念だけで会話するのを、俺も才子もはっきりと聞いてしまった。
 俺は、平静さを装って素早く目の前のサンドイッチを食べ尽くした。
 才子に目で訴えると、彼女も顔は動かさず、目でそれに肯いた。 俺は、すぐには了えられずに困っている彼女の分のサンドイッチの残りも口に運び簡単に片付けると、君達を意識してはいない、という状態を見せる為、態と煙草に火をつけ、ゆっくりと喫った。
 その間も彼らの会話は継く。
ーーー「ジョーにアポとるか?」ーーー
ーーー「そうだ、一寸威嚇してもらおう」ーーー
ーーー「まだ、気付かれてないよな・・・」ーーー
 そして、30代の客は、テーブルの死角で、どうやら、携帯のメールを打ち込み始めたようだ。
 俺は、請求書を持って円滑な動きで立ち上がり、レジに向かった。
 才子には、いちいち、口述で説明などしなかった。きっと、彼女も、身の危機を感じて、俺に準じて動くに違いない。
 俺達は、何とか演技の儘、店を出、パルサーを発進させた。主要道に出る為、ハンドルを左に切って店の駐車場を出る時、ーーパン!ーーパン!ーーという銃声か爆竹の音がミラノの右後ろで鳴った。「振り返るんじゃない!」
 俺は、そのままアクセルを踏み込んだ。

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『奇妙』13 [自作原稿抜粋]

   異質な世界
 その日の番組プログラムに急遽(きゅうきょ)の変更が有った訳でもない。しかし、どのチャンネルに換えてもその映像と音は、俺に非難を浴びせるものだった。
 人間、永く生きてもしょうがない。
 今、28才の者は、不幸の人生の当事者だとか、Kの今までに身に附けた嗜好や考え方がバラエティー番組でにすら、槍玉に挙げられ、誹謗中傷されているようにKには感じられた。
 しかも、Kには、映像のコマそのものがTVの一秒32コマよりも多く、動画が鮮明過ぎて、その色も彼に攻撃して来るように感じられた。
 何でもないタレントのバラエティー番組の最後の台詞が、『今、アコオに居る奴は最悪の運命やね』という、何故か解らない端語(たんご)が、自分だけを嘲笑している様にも思えた。
 俺は、TVを切った。
「**さん。私、生きとったらアカンのでしょうか?」と、才子は、言い。「さっきのTVでも、Kさんには分からないでしょうけど、私、被害妄想じゃなくて、TV番組にまで情けない自分を非難されてるように感じるんです。」と言った。
 俺は、セイコー・スキューバを見た。午後九時八分だった。
 オリエントのツインクォーツ程、しっかりした守護的な物とは感じられない。
 そもそも、このセイコーは、ツインクォーツなのか、シングルクォーツなのか、それさえもはっきりしない。一〇気圧防水のそれは、確かに質感を持ってはいた。
「調査に行こう」と、俺は、才子に言った。
「心配しなくても、常に僕が付いているから」と、俺はさらに言った。
 赤穂の田舎であるその○○荘から、俺達は、車を使わず、約一㎞程の半径を歩き回った。
 才子は、時々、不安を紛らわせるように、胸元のペンダントに左手を当てて深く息を吸っていた。
 喫茶店を二軒回ったが、別段の違和感は俺には感じられなかった。
 俺は、調子が悪くても送り手だからだ。
「海のある風景を観に行こう」
 才子は、何某(なにがし)かの奇妙さをこの街に感じ続けている様だったが、その呪縛から外させる為にも、俺は彼女を誘導した。
 初めての相手の初めての車に乗る事に、少し迷いを持っている才子だったが、必然のように、俺達はドライヴした。
 俺は、頭が痛かった。否、大して酷(ひど)くない頭痛が、アレルゲンであるダストからの刺激によって段々と酷くなってきた。
 そのダストが、旅に出てからのものかどうかは、もう、俺には判らなくなっていた。
「才子さん。僕は頭痛持ちで・・・、君に多少、迷惑を掛ける事になるが、一時的なものだから・・・」と、俺は、言い訳めいた台詞を吐いた。
「私は、受ける力が強いから、色んな事は、今までにも経験してる。あんまり気にせんといて・・・」と、彼女は、俺に気を使っていた。
 俺は、緊急避難的な意味で、湾のコンクリートの端に車を留め、休んだ。
 少し横になった。
 偶然に、俺の茎からは、予期しない漏洩が少し起こった。
 相変わらず頭痛は酷い。
 何故か、沙由理との昔の情交の感覚が、海馬に再生されていた。興奮する度に、頭痛も強くなってゆく。
 隣りの才子に向かって、俺のeは放射されていた。
 才子が、俺の左側に居たからである。
 頭痛と性の快感が、かなり高くなった時、全ての今の頭の痛さは、引き潮のように失せた。
 何の間も無く、俺の脳裏では陰茎が膣を押し拡げている映像がよぎった。
「それでいいで・・・・」
 唐突に才子が言った。 
 同時に、陰茎そのものにも膣を押し展いている実感が奔った。継いて才子は、急に俺の陰茎を自らの口で轡え、両手の平で押し寄せる波のように、愛撫した。
   *   *
 俺達は、只、パルサーの中に横たわっているだけだった。
 左の視野の隅に、造船所の煙突の蒼白いガスバーナーの炎を捉えた儘、只、横たわっていた。
 しかし、俺達の脳の内部では、お互いの躰を求め合い、完全な性交を行っていた。観念の交換だけによるSEXである。
 才子は、絶頂にまで辿り着いた。
 俺は、意識の、つまり感覚としての絶頂は有ったが、確実な精液の放出には至らなかった。
 エンジンを掛けたまま、「一寸、まっててね」とKは言い。港のスレート造りの倉庫の照明が届かない所で素早く手淫し、欲を処理した。
   *   *
 俺と才子は、○○荘に戻り、久し振りに纏(まと)まった睡眠を摂った。 才子は、俺と居る事で安堵感を持ち、何日か振りの入浴をして、二人共別々のベッドで深い睡眠(脳の休養)を得た。
 クーペの女からも、超能力少年からも、俺達それぞれの眠りを妨げる電話は掛からなかった。


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『奇妙』12 [自作原稿抜粋]

   結束
 特に眠りが浅かった訳でもないが、次の日八月十六日、月曜日、5時半に、俺は目覚めた。アルコールが多いと早く目が開く事も確かだ。
 ショルダーに持参しているインスタントコーヒーとビスケットタイプの栄養食品で朝食を済ませる。
 才子からの電話を待ってあげなければいけない。今日は、部屋を移るのだが、色々な不安を抱えた彼女を放っておく訳にはいかない。
 朝食を終えたのと同時に部屋の電話が鳴った。
「K様。フロントでございます。ヨシザト様より外線が入っておりますが、お繋ぎしてよろしいでしょうか?」
 俺は、構わないと言った。
「どう? 奇妙な世界の追求は諦めた?」
 クーペの女だった。
「君、どうしてここに・・・・とにかく、僕の決める事だ。・・・それに、今、一寸急用が有るんだ。悪いけどケイタイ教えるから後でそっちに、090********解った!?/」
 俺は、短く電話を切った。
(いや、もしかして・・・?)
 もう一度、同じ受話器を手に取って耳に当てる。
「何が有ったのよ。世間話し位、いいでしょ。」
「今、この回線が必要なんだ。タ・ノ・ム・カ・ラ・切ってくれ!!/」
 再度、受話器を耳に当てると、ようやくツゥーッという信号音に戻っていた。
(まったく、主観的マイペース女め・・・・!)
 才子の部屋番号を訊いておくべきだったと、俺は後悔した。
 ともかく、今の最善は、この部屋でじっと待つ事だけである。フロントに訊いても個人の保護の為、教えてくれないに決まっている。
 俺は、考え直してウィスキーを飲む事にした。
 朝から酒では、凡人から観れば乱れた生活の奴、という事にもなるが、今の俺は、旅行者なんだ。規則正しく行動をとらなくても、何処にも迷惑は懸からない。
 仕事が有るから有り難い。
 金だけ有って、年中暇だったら、俺は、365日、毎昼夜、酒に浸かって脳が毀れてゆくのも相当、早いという目算になる。
 正午前頃、次の行動が決められなくて閉口してしまっていた処に、やっと才子からの電話が入った。
 俺は、才子に、「今からは、一緒に動こう」と言って、チェックアウトするように言い、フロントの前のロビーで赴ちあう事を告げた。
 ショルダーとエレベを持った俺は、フロントで一旦チェックアウトし、新しいツインルームの鍵を受け取った。
 どんなに酔ってもしっかりしているが、吐く息は相当に酒臭い筈だ。それを俺は、客観的にも自ら察知している。
 フロントの正面に位置するロビーのソファーに、フロントクラークと対面する向きに腰かけ、俺は、才子の精気のないチェックアウトの経過を見ていた。
 才子と再び合流した俺は、ホテルの斜向かいのファミレスに彼女を連れて行き、ガーリックの入ったスパゲッティーを共に食べた。
「兎も角、時間に余裕の有る内は、僕にくっついていたらいいよ。君が体調を戻すまでに、まず、二・三日は要る。」
 俺は、会話の隙間に、ずっとそんな意味の文を挟んだ。
 彼女は、未だ元気とは言いようがなかった。才子は、親に対する幼児のように、いちいち俺の言葉に肯いていた。
 ファミレスを出て、もと来た道を戻った。
 ○○荘に再び入る時、才子は、「あれっ?」と、小さな声で驚いていたが、俺は、彼女の頭を軽く叩き、先導して新しい部屋へ向かった。
 俺の身長とは30㎝位違う小さな娘だ。
 俺達はツインルームへと遷った。幾ばくかの不安は、才子には勿論有る筈だった。しかし、才子は、俺を信用するという選択肢を選び、その全人格を俺に預けた。
 俺達は、ツインルームであるのに、尚且つ大きい一方のベッドに一旦、横たわった。
 剰り意義を持たない時間を、お互いの時差の調整の意味で共有した。
 それ位しか他にする事がないという時にしか俺は、TVを見ない。
 俺と才子は、それぞれのスケジュールに余裕を持たせ、TVを見た。
 元々が意味のない放送であるのに、摂取欲を持たぬ俺達にも、その日のTVは異質な映像の動きを俺達に刺し込んだ。


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『奇妙』11 [自作原稿抜粋]

   才子
「私、姫路から来たんだけど、今は、一人旅の途中で、気晴らしに旅行に行こうと車で神戸とか明石とか・・・その前に、大阪に遊びに行って、気楽な旅のつもりだったのにこの街、赤穂に来たら、・・・・その前にも赤穂には来た事が有ったんだけど、何か今までとは違う感じで・・・・」
 彼女は、矢継ぎ早に文章をうまく組み立てられない内に言葉を吐き出した。
「俺は、高砂で異様な空間に遭ってる。・・・・四次元的な摺(ず)れた世間に迷い込んだのかもしれない。君も僕も。・・・」
 彼女を平静に近づける為に、俺はコーヒーを彼女に飲ませた。
 自分のマルボロも彼女に敢えて喫わせた。
 俺は、フロントへ電話し、ツインルームに換えての明晩から10日間の延泊を申し出た。
 半額の先払いが必要だというフロントクラークに、「今から契約に行くから」と、話して、彼女を残し1Fに降りて行った。不安そうな彼女に、ただ肯く事によって全てを諭した。
 部屋に戻った時、彼女は上機嫌に酔っていた。
 ミニバーの500㎜リットルの缶ビールが二本、タヴが起ったまま、テーブルに並んでいた。
「私の飲んだ分は、後で払います。あの・・・もう一寸、此処に居てもいいですか?」
 という彼女は、さっきよりは元気になったようだが、人間本来の健全なeとは符合していないようだった。
 彼女自身は、非常に疲れていて、彼女の中に入った他の者が宴を設けて楽しんでいるようだ。憑依(ひょうい)した何者かが、俺に口を開いている。
「何か悩んでる?」
 俺は、態と訊いた。
「何も。楽しいよ、生きてるのは」
 俺は、初対面でさらに初対面である彼女の内の何者かに向かう為、彼女の傍らに座り、両肩を掴んで上体を自分に向かわせる形で捻(ひね)り、瞳の奥を睨んだ。
「何ですか?」
 俺は、そのまま瞳の奥を見据え続けた。
「・・・・・」
 何者かが彼女の面(おもて)を支配し始めた。
「修羅でなあ~。この世に戻りたいよ・・・。もう一度、生き直したい。ワシは、あんな戦で人生を終わらせてしまった。・・・・まだまだ、アレもコレもしたい、御前の五代前の女、あの女と一緒になるつもりじゃったのに・・・。歴史は、ワシを殺した。・・・・維新じゃ、そりゃ頭は倒幕が念願だったからそれでいい。しかし、ワシは、生きて己が幸福を掴むつもりじゃった。それなのに・・・、頼む・・・、この女の躯を貸してくれ・・・生きてる感覚だけを少しでいい・・・・」
「それは、出来ない。早死にしたのも神か運命が定めた処だ。・・・・貴方は、次の場所へ行きなさい!」
 俺は、そう言って、彼女の心臓の真裏に右手の二本の指を当て、左手を合掌の時のように自分の前に置き、観音経の一部を約五分間唱えた。
「次の世界も悪い所じゃない」と言って、南無大師遍上金剛と六回唱えた。
 彼女は、すっと本来の疲れの状態に戻り、俺の胸に凭(もた)れて眠りに入った。
 俺は、本来はキリスト者だが、今、神との距離が遠くなっている状態では、その祈りは即効力を持たない。そして、本当に信仰を外さない生き方をする者は、本当は、他の神仏を拝んだりしないものだ。なぜならキリストは、妬む神だからである。
 俺は、彼女をソファーにそのままに寝かせ、昼間、酒の量販店で買ったジョニーウォーカーをビールグラスに半分注ぎ、ベッドサイドに座って飲んでいた。氷も湯も水も足さず、舐めるように且つ30分にグラス半分程のハイペースで飲んでいた。
 実は、寂しいのだ。
 何に渇っしているのかは自分にも解らない。
 物質欲も充たされているし、経済的にも困ってはいない。酒も愉しめるし、車も有る。仕事も、二人の部下を持つ身となって充実している。女色が必要な時は、時々、病気の心配のない風俗店に行ったりもする。
 友人も少なくはない。
 本心をぶつけ合う友人は居ない。しかし、そんなものではないだろうか、と内心では納得している。
 昔、数年前迄は、佐伯が居た。
 何をぶつけても、決裂しても、次の日には接続詞を使わず、また話しの続きさえ出来る相手だった。
 彼は、逃げてしまった。Kの地元から、親友のKにも連絡先すら告げず、彼の両親にだけ伝えてあった電話番号すら、すぐに変えてしまって、今ではT市の誰もが皆、彼と話す事も出来ない。
ーーー「俺は、拗(こじ)れかけた持ち場からは逃げるんだ。・・・健康であってさえすれば、逃げた先で何らかのそれなりの生活は出来る。仕事からも、女からも、ヤバくなったら逃げ続けるさ・・・・。K、御前のように、本当に困ったら自殺を図るような考え方には、俺はならない。御前がそうしたという事じゃなくて、御前の考え方だ。俺は、死ぬよりは逃げる、逃げたほうが益だ。ーーーー
 俺は、最後に佐伯と話したその彼の台詞を思い出していた。
(あれは、造船所なのか・・・)
 俺は、高砂でも観た同じような蒼白い炎を、太く高い煙突から出るその炎を、窓から見ていた。
「そうや、造船所やで・・・。昔ほどは盛んやないけど」
「読めるの・・・リーディング出来るの?」
「そう」
 俺は、少しは驚いたが、取り乱す程ではなかった。
「そうやった。アンタの名前は? 僕**」
「サイコ。才能の才。苗字は、今は勘弁して」
「才子さん。一寸は、落ち着いたかな。・・・今日は、ひとまずアンタの部屋に戻って、ゆっくり休みなさい。色々な相談は明日にしよう。」
 と言って、俺は、才子の手を取って立ち上がるのを手伝ってやった。
「ともかく、色々な事は心配しないで・・・否、一旦棚上げにしておいて部屋で休みなさい。それに、アンタと僕は異性だから、初対面の今、同じ部屋に居るのは良くない。お風呂に入るのも、結構体力を減らす事になるから、今日はすぐ横になる事、分かったネ」
 くすんだ肌で疲弊を顔に露わしている才子に、そう宥めるように言って、俺は、自室のドアを出る所まで彼女を見送った。
「部屋に居るんだよ。今は、フラフラ動いちゃ駄目だよ。・・・何かあったら、内線で306に電話すればいいから」と言って、俺は、丘平鉄工の自分の名刺の裏に306とボールペンで書いて彼女に渡した。
 彼女は、幾分、不安を抱えている表情の儘だったが、今は、仕方のない事と納得したようで、何とか歩ける弱々しい足取りで廊下を歩いていった。
 俺は、さっきまで座っていたベッドに腰を下ろし、華が存在していたソファーとテーブルの宴の跡を一瞥してから、又、造船所の煙突のガスバーナーを見つめ、ジョニーウォーカーの続きを飲んだ。
 午前0時20分だった。


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『奇妙』10 [自作原稿抜粋]

 俺は、最後の黒いビールを呷っていた。
 俺の左に座った男達二人がニッケルメッキの指輪を嵌めた指を各々、拳を造るように強く握った。窓から外を見て、お互いに目許だけでニヤニヤと嗤(わら)っている。
 窓の外では、畳んだ傘を持った五十代と思われる婦人が、急に心臓を押さえて蹲り、傘は、婦人の手を離れて、閉じた儘(まま)空中に弧を描いた。
 蹲った婦人は、口の端から泡を出し、次の瞬間、脱力して道路に俯せてしまった。
 通行人も労る為に駆け寄ったりもしない。
 俺は、教育的な意味を持った行動を執(と)ろうとは、こういう場合思わない。
「釣りは、いいから」
 と、言って、千円札を二枚カウンターに置き、レゲエ風のファッションをしたニッケルの指輪をした男たちに照準を合わせ、偏頭痛の度合いを最高にした。
 男達は、首を折り、一旦息を停めて仮死状態に入った。
 それに気付いていたのは、顎髭の若いマスターだけだった。
 姫路よりは、西に来てしまった。
 今日の宿は、民宿とビジネスホテルを足し合った様な”○○荘”という所だった。
 屋敷全体としては、昭和の三、四十年代頃を思わせる建物だったが、エントランス兼ロビーは、大きな面積の上に二階までの吹き抜けで、その一帯だけは、半球体のシャンデリア等が大正時代を想わせた。
 事ある毎に利用する馴染みのビジネス客も、一見で泊まったレジャーの意の旅行者達もその殻を溶かしていた。そして、その鎧(よろい)を外(はず)す事を厭(いと)わなくさせる雰囲気が、そうさせるのではなく、この場所と時間、正確には全ての無関係な者たちが、偶然に交差し、一旦出会す地と時刻が、そうさせるのかもしれなかった。
 誰に話しかけても憶する必要がないのは、俺にも皮膚的な感覚として自己の中に伝わっていた。
 しかし、俺は、敢えて見知らぬ他人に話す事はしなかった。
 ロビーでは、十数人の他人が、四、五人の打ち溶けたグループとなって会話を交わしていた。
 理由もないのに、俺は、ロビーに留まり、しかも、端のソファーに腰掛けて、小さな音量でかかったTVを見ていた。
 毎年の行事、盂蘭盆の行事をニュースは伝え、中国・四国地方の天気予報を画面は流していた。
 何故か、俺の横にも、グループ化に自らが肯(うなづ)かない一人の旅行者が座っていた。俺と同じように、ただTVの画面を漠然と見、ただ時間を潰していた。
 その旅行者は、女だった。
 多分、それは俺にしか分からなかっただろう。
 若いか年輩かは俺にも分からない。何日間かを野宿して来た様な汚れを、その髪と肌に付けていた。
 すぐにシャワーを浴びて、それからゆっくりしても良さそうなものである。
 俺は、その女には興味を抱かず、余興のない自分の部屋へ引き揚げようと思った。
 昔ながらの、熊が鮭を捕まえている姿を彫った置物を、今では珍しいと感慨に耽りながらケース越しに観ていた時、その女は俺の横に俺と同じ躯の向きのまま顔を寄せ、救いを求めるようにこう言った。
「この街は変だと思いませんか・・・?」
 女は、自分は狂人でない事を証すような躊躇した言い方を含めて続けた。
「ワタシ、貴方にだったら、今困っている事を言っても聴いてもらえると思うから話してるんです・・・。でも、お話ししてもいいですか? あの・・・私、昨日とその前の日から・・・・/」
 俺は、女を目で諭し、同時に他人目に変にならないように意識しながら肩をさすってやった。
「俺の部屋に来なさい。貴方が困っている事についてだけ、二人で話してみよう。貴方は疲れている。相当に」
 女は、井戸から現世に戻ってきた幽霊のように俺に付いて来た。「何があったのかを今すぐ話す必要はない。僕は、非凡な事柄、特に霊的な呪縛に対して、それを払い除ける力を持っているから・・・今は、僕が付いているから安心して、まず眠りなさい。眠れなかったら横になるだけでもいい。」
 部屋に入った俺は、女に、まず転(うた)た寝を勧めた。
 俺には、リーディング能力は無い。しかし、この女が霊症か、神経的に草臥(くたび)れている事は、自身の洞察力からすぐに解った。

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『奇妙』9 [自作原稿抜粋]

   ストレンジ・タウン
 室内は、薄暗かった。否、仄(ほの)かに明るいという方が表現としては合ってるのかも知れない。
 偏頭痛は退き、替わって喉の不快感が有った。セイコーのスキューバを見ると四時二十分を指していた。
 朝の四時二十分なのか、夕方の四時二十分なのかも判らなかった。ただ、喉の不快感が、俺の時間割にとっての明け方である事を示していた。
 眠くはなかった。
 そして、雨が降っていた。
 俺は、好奇心からホテルの中を彷徨(ほうこう)し、いつしかロビーに佇(たたず)んでいた。
 ソファーに座り込んでうとうとと半睡してしまった。
 両頬にひやっとしたベクトルを感じた。
 動こうとは思わなかった。波のように繰り返す眠気がハードパンチを浴びせていた時だったからである。
 又、半時ほど眠ってしまった俺は、再び意味のないホテル内の探訪に向かおうと、覚醒した時に思った。
 ソファーから数歩離れ、自分の泊まっているのとは別の棟に向かってその絨毯の通路を歩き出そうとした時、腰に側腰に冷たい柔らかさの接触を感じた。
 俺が、次の行動を起こす一瞬前に、その何らかは俺の臀部(でんぶ)に向かって数センチ摺(ず)れて触れ続けた。
 俺は、特定出来ないものに対して身を返して向き合った。
「また、会いましたネ」
 クーペの女だった。
 俺の性感覚と拍動(はくどう)は上昇していたが、彼女には、それを知られたくなかった。
「君か・・・何処に行くんだい?」
「予定など決めない息抜きの旅よ」
 俺は、この女とどうこうなって、それからどうの・・・という事は、どうでも好かった。
 妻を娶(めと)って世間並みな尺度の幸せというのは、もう諦めている。それよりは、昨日の少年の電話に付随する事柄が、今の俺の意中の事柄なのだ。
「奇妙な世界に、目を向けない方がいいわよ。質実な生活は、やがて実を結ぶから・・・」
「何の事やろ」
 彼女が、昨日の電話やエトセトラ、俺の一部分を占める神秘性について知っているとは毛頭思えなかった。
「偶然で会えたら、又、会いましょう」
 彼女から、なぜ、何を、と訊き出したい思いだったが、俺の脳では、その文の組み立てが上手く行かず、言葉を掛けられなかった。 彼女を網膜の中に何十秒と捉えたまま、そして、彼女は、ゆっくりと時間を遣って、俺の視野から消えていった。
 確実な朝が来、確実な日中がやって来た。
 今から、どう動けばいいのか? 単に自分の旅を楽しめばいいのか。
 責任なんてものは、俺にはない。自らが羽根を伸ばす為に空けた休暇を存分に楽しめばいいだけである。
 妙な街に行って。つまり、妙な街を自分の方から探し出して、その街を普通に戻すべき責務は、それが正しいとしても自分にはない。 そして、その街は、何処に在るのか?
 着信履歴は、公衆(非通知)だった。
 あの女を(合意の元に)捉えて、彼女と色情に溺れる事も、社会的にもそれは赦された自由だ。
 一応、チェックアウトする。
 目的地を持たぬ旅の場合、退屈であっても、連泊を宿に申し出、その期間(ゆとり)を持った方が、後々動くとしても良い事なのだ。その日の宿をその日に決める方法では、宿を取れず、体調を崩す事にもなる。
 クーペの女の事は気懸かりだったが、半分、奇妙な街の探索と、半分、自身の気晴らしを好(よ)しとした旅へ向けて、その日も俺は、パルサーを滑らせた。
 移動の為に昨日と同じような義務的な動作を繰り返し、その行動の中で姫路市を越えて竜野(たつの)に入った。
 初めから目的地を決めて動く現代風な旅行者の旅から比べれば、移動する時間はもの凄く遅かった。
 例の、対ビジネスマンサービスの番号に掛けて、赤穂で宿をとった俺は、態(わざ)と道草を喰った事もあって、その日の夕方七時に宿に寄った。
 しかし、妙だった。
 車を前へ進ませる度、前の路を後景へと送る毎に、その色合いは緑係(みどりがか)っていった。丁度、TV画面の色調のつまみを端まで極端に絞(しぼ)ったように、それそのものでなく、景色は、緑と黄と、非常に狭い範囲のスペクトル成分での赤とが強調されてきた。
 途中、立ち寄る道の駅やコンビニの店員、そして、そこに居る他人の態度も普通に考えられる例とは異なっていた。
 異常な緊張が、店員達からはKに伝わった。
 ともかく、客達も皆、言葉数が少ないのだ。皆、レジに、買うべき商品だけを持って並び、世間話しや、冗談、ついでの日々の仕事の疲労から出る筈の愚痴すら口にしない。
 時々、**は何処に有るか、といった客の質問には、店員は即座に置いている場所を口答する。
 不慣れな新人すら存在しない。
 俺は、赤穂(あこう)に入る前の街で、一つのバーに立ち寄った。酒気帯びを少し気にしながらも、黒ビールを一本堪能した。
ーーー「又、一儲けして来たよ」ーーー
 と言って、数人のグループが丸テーブルを囲んで鼻息を荒くしていた。
ーーー「念動エネルギーを内側に、自分の頭の奥に向けるんだヨ、そうすれば、見かけの時間は、ゆっくりになるよ。そうすりゃ見えるんだ。スロットの柄が、まるで止まってるみたいにな!」
 その一つ置いて隣りのテーブルに座った鳥打ち帽を被った男は、手元のコーヒーカップに視線を向けていたが、強いテレパシーを発していた。
 リーダー(読み手)ではない俺が、はっきりと判る言葉を発していた。
(三十二、三十一、・・・・青だ。青い屋根の学校の玄関で俺を待っていろ!!お前を抱きに行く)
 斜向かいに、その言葉にいちいち相槌を打つ湿った四十代の女が、反対向きにカウンターに座っていた。
 バーの唯一の戸外に面した窓からは、数人のそれぞれの人々が家路を急いでいた。

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